とある門番の業務日誌

○月□日(晴れ)

朝からの暖かな陽気が宵の口まで続く。来客、侵入者、共になし。平穏な一日。お昼はパン。夕飯は豆と肉がたっぷり入ったスープをいただいた。
夕飯に珍しいことがあった。晩御飯を咲夜さんが手ずから持って来てくださった。そればかりか、「お疲れさまね、美鈴」と労いの言葉までかけてくだ
さった。とても嬉しかった。おかげで今日の晩御飯はいつも以上に美味しく感じたし、よく眠れそうだ。お昼に少し寝たけれど、心配なさそうだ。

○月△日(晴れ)

風、やや強し。お庭の花壇の花が散ってしまわないか心配だったが、杞憂だった。今日も侵入者なし。お昼過ぎ、いつものようにパチュリー様に会いに
黒白の魔法使いがやって来ただけ。特にパチュリー様から通すようにとは言われていないが、いつものように気を利かせ見咎めず通した。お土産に山ほ
どのキノコをくれた。あの魔法使いはいつもお土産を持って来てくれる。実に礼儀の分かった魔法使いだ。パンを食べたばかりだったので、夕飯のおか
ずにした。よい香りをと歯応えの、絶妙な一品だった。また食べたい。夕飯は湖でとれた白身の魚のソテーだった。これも美味しかった。
そういえば今日も黒白魔法使いがお屋敷から出ていくのを見ていない。いつもどこから帰っているのだろう。不思議だ。

○月☆日(晴れ)

今日は一日中良い天気。昼間の記憶が曖昧だ。きっと咲夜さんが時間を早めたか、お嬢様が何かされたに違いない。もしかしたらパチュリー様の魔法実
験の余波かもしれないし、妹様が私のお昼の記憶を壊してしまったのかもしれない。少なくとも、私は断じて昼寝をしていたわけではない。
今日も来客も侵入者もなし。暇だったので、一日太極拳をして過ごした。妖怪も健康が一番である。よく寝て、良く運動して、良く食べるのが健康の秘
訣だ、と竹林の妖怪兎も言っていたし。そういえば兎と物々交換した健康に良いというお茶はまだ残っていただろうか? 非常に苦くてまともに飲めた
ものではなかったが、良薬は口に苦し、だそうだ。最もである。
咲夜さんの目を盗んでアレを取って来るのは大変だったので、湿気て飲めなくなっていたりすると少し悲しい。後で部屋を探してみよう。
お昼にパンを、夕飯に肉と野菜を辛口ソースで炒めたものを食べる。ピリ辛が食欲をそそり、あっという間にたいらげた。お嬢様も、同じものを召し上
がったのだろうか? 辛さに悶えるお嬢様の姿を想像すると、何とも愛らしい。

○月★日(曇り、のち晴れ)

今日は朝から咲夜さんに叱られた。まだおでこが痛い。本当に咲夜さんは容赦をしない。流石の私でも体がもたない。どうやら私の業務日誌が問題らし
い。なんでだろう? どこがおかしいのか聞こうと思ったけれど、また怒られそうだったので止めた。
今日もお昼にパンを食べた。しかし残念ながら罰ということで、夕飯抜きにされてしまった。……と、思っていたけれど、後で咲夜さんがお嬢様が食べ
きれなかったという残り物を持って来てくださった。嬉しかった。矢張りお昼のパンだけだと、お腹が空いて眠れそうになかったのでとても有難い。と
いうわけで夕飯には小さなサイコロみたいに切り分けたお肉を少しと、サラダを食べた。
食べ終わってから、「お嬢様はあまりこういう脂っこいお料理はお好きじゃなかったような」と私が言うと、咲夜さんは「余計な事を言うと、明日は間
違いなく夕食抜きよ」と言われたので、それ以上は何も言わなかった。なのでここに書いておこうと思う。咲夜さん、ありがとうございます。
あと、あまりにおでこが痛むので木陰で休んでいると、何時の間にか日が暮れてしまっていたのは、けして咲夜さんのせいではないと思います。

Fin

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